ストレスを感じると、つい甘いものや脂っこいものに手が伸びてしまう…。
そんな経験はありませんか。
「自分の意志が弱いから」と思われがちですが、実は暴飲暴食には、体の中で起こるある変化が深く関係しています。
今回は、ストレスを感じると食欲が増える理由や、内臓脂肪がつきやすくなるメカニズムに
急性ストレスと慢性ストレスでは食欲の変化が違う
ストレスと一言でいっても、実は「急性ストレス」と「慢性ストレス」では体の反応が異なります。
例えば、
- 明日の試験
- 大事なプレゼン
- 面接
- 発表会
など、短時間で終わる急性ストレスでは、交感神経が強く働くため、食欲が低下することがよくあります。

一方で、
- 仕事の悩み
- 人間関係
- 将来への不安
- お金の悩み
など、何週間、何か月、あるいは何年も続く慢性的なストレスでは、食欲が増し、暴飲暴食へつながりやすくなります。
つまり、「ストレス=食欲が落ちる」とは限らず、ストレスの種類によって体の反応は大きく異なるのです。

「ストレス」という言葉は、もともと物理学で「外から力を加えたときに生じるひずみ」を意味する言葉でした。これを医学の分野に広めたのが、カナダの生理学者ハンス・セリエです。1936年にストレスに関する研究を発表し、日本では戦後の1950年代にその考え方が紹介されました。特に1957年、セリエが来日したことで「ストレス」という言葉が一気に注目され、この年の流行語にもなったとされています。当時の日本は高度経済成長期に入り、都市化や会社員の増加など生活環境が急速に変化した時代。その後、1980年代頃には仕事や人間関係による心身の負担を表す言葉として、現在のように日常的に使われるようになりました。
ストレスホルモン「コルチゾール」とは?
慢性的なストレスによって分泌される代表的なホルモンがコルチゾールです。
コルチゾールは副腎という臓器から分泌されるホルモンで、「ストレスホルモン」という別名でも知られています。
しかし、本来コルチゾールは悪いホルモンではありません。
人類の祖先は、ライオンやクマなどの野生動物に遭遇すると、命を守るために戦うか逃げるかという判断を迫られていました。
そのような生命の危機に備えるために、
- エネルギーを確保する
- 血圧を維持する
- 炎症を抑える
- 食べ物を確保する
といった反応を引き起こすのがコルチゾールの役割です。つまり、体を守るための応急処置として分泌されるホルモンなのです。

コルチゾールはどのように分泌されるの?
ストレスを感じると、まず脳の視床下部が刺激を受けます。
すると、視床下部からCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌されます。
次に脳の下垂体からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が放出され、このACTHが副腎皮質を刺激することで、最終的にコルチゾールが分泌されます。
この一連の仕組みは医学的にはHPA軸(視床下部‐下垂体‐副腎系)と呼ばれ、私たちのストレス反応をコントロールする重要なシステムです。
コルチゾールの分泌により体内で起こる4つの反応
コルチゾールが分泌されると、体内では生命を守るためにさまざまな反応が起こります。
① 血糖値の急上昇
コルチゾールは肝臓や筋肉に蓄えられている糖を血液中へ放出し、すぐに使えるエネルギーを確保します。
これは危険な状況から素早く逃げたり、敵と戦ったりするために必要な仕組みです。
しかし、この状態が長期間続くと血糖値が高い状態が続き、糖尿病など生活習慣病のリスクが高まる可能性があります。
② 血圧上昇
コルチゾールには血圧を上昇させる作用があります。
血圧が低いままでは十分な力が発揮できず、脳や筋肉へ酸素や栄養を送り届けることができません。
そのため、血管の反応性を高めて血圧を維持し、緊急時でもすぐに体を動かせる状態を作ります。
一方で、この状態が慢性的に続くと、高血圧の原因になることもあります。
③ 抗炎症作用
コルチゾールには免疫の働きを一時的に抑え、炎症を軽減する作用があります。
例えば、動物から逃げる際にけがをした場合、炎症が強く起こると体力を消耗してしまいます。
そこでコルチゾールが過剰な炎症を抑え、生命を守る働きをします。
現在、医療現場で使用されているステロイド薬も、このコルチゾールの働きを応用して開発された薬です。
④ 食欲増進作用
コルチゾールには食欲を増やす働きがあります。
生命の危機を乗り越えるためにはエネルギー補給が必要になるため、自然と食べ物を求めるようになります。
さらにストレスを感じている脳は快感を求めるため、
- チョコレート
- ケーキ
- アイスクリーム
- ポテトチップス
など、高糖質・高脂質の食品を無意識に選びやすくなります。
つまり、ストレスによる暴飲暴食は、単なる気持ちの問題ではなく、ホルモンが引き起こす生理的な反応でもあるのです。
なぜストレスで内臓脂肪が増えるのか?
「ストレスがたまると甘いものが欲しくなる」という経験をしたことがある方は多いでしょう。
実はこれも、コルチゾールの働きによる自然な反応です。
ストレスによってコルチゾールが分泌されると、食欲が増すだけでなく、脳は効率よくエネルギーを補給できる高糖質・高脂質の食品を求めるようになります。
例えば、
- チョコレート
- ケーキ
- アイスクリーム
- ポテトチップス
などが食べたくなるのは、このためです。単なる「好み」や「意志の弱さ」ではなく、脳がストレスから身を守ろうとして起こす生理的な反応なのです。

さらに重要なのは、コルチゾールには脂肪を蓄えやすくする働きもあることです。
脂肪細胞にはコルチゾールと結合する「受容体」が存在しています。コルチゾールがこの受容体に結合すると、「脂肪を蓄えなさい」という指令が出されます。
そして、この受容体は皮下脂肪よりも内臓脂肪に多く存在するといわれています。
つまり、
ストレス
→ コルチゾール分泌
→ 食欲増進
→ 高糖質・高脂質食品を食べる
→ 内臓脂肪に脂肪が蓄積する
という流れができあがるのです。
ストレス太りは「お腹だけ太る」原因にも
ストレスによる肥満では、お腹周りだけ脂肪がつき、手足は比較的細いままという体型になることがあります。
このような体型は中心性肥満(中心型肥満)と呼ばれ、内臓脂肪型肥満の代表的な特徴です。
動画内でも、「お腹は出ているのに、半ズボンを履くと脚は細い人がいる」という話がありましたが、これはまさに内臓脂肪が増えている状態を表しています。
内臓脂肪は見た目だけの問題ではありません。
増えすぎることで、
- 糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
- 脂肪肝
- 心筋梗塞
- 脳梗塞
など、多くの生活習慣病のリスクを高めることが知られています。
ステロイド治療でも同じことが起こる?
実は、この現象は医療現場でもよく知られています。
コルチゾールに似た働きをする薬がステロイド薬です。
ステロイドは炎症を抑える非常に優れた薬で、自己免疫疾患やアレルギー疾患など、さまざまな病気の治療に使用されています。
一方で、長期間使用すると副作用として中心性肥満が現れることがあります。
顔が丸くなる「ムーンフェイス」や、お腹周りに脂肪がつきやすくなる症状は、コルチゾールと同じような作用によって起こります。
つまり、ストレスによるコルチゾールの増加と、ステロイド薬による副作用は、同じメカニズムで説明できるのです。
暴飲暴食を「意志だけ」で止めるのは難しい
「食べ過ぎるのは自分の意志が弱いから」と思ってしまう方は少なくありません。
しかし今回ご紹介したように、ストレスによる暴飲暴食にはホルモンや脳の働きが深く関係しています。
そのため、理性だけで我慢しようとしても、なかなかうまくいかないことがあります。
もちろん、暴飲暴食を続けることは健康に良くありません。
しかし、まずは「ストレスによって食べたくなるのは自然な反応である」ということを知り、自分を責めすぎないことも大切です。
まとめ
ストレスによる暴飲暴食は、単なる気持ちや意志の問題ではなく、ストレスホルモン「コルチゾール」の働きによって起こる体の自然な反応です。
慢性的なストレスによってコルチゾールが分泌され続けると、食欲が増すだけでなく、高糖質・高脂質の食品を欲しやすくなり、内臓脂肪が蓄積しやすい状態になります。その結果、肥満だけでなく、糖尿病や高血圧などの生活習慣病のリスクも高まる可能性があります。
📝 用語解説
次回の後編では、ストレスによる暴飲暴食を防ぐための具体的な対策や、現代のストレス社会と上手に付き合う方法について詳しく解説します。
① コルチゾール
副腎皮質から分泌されるホルモンで、「ストレスホルモン」とも呼ばれます。ストレスを受けた際に血糖値や血圧を上昇させ、生命を守るためのエネルギーを確保する働きがあります。
② 視床下部
脳の中心部にある組織で、自律神経やホルモン分泌をコントロールする司令塔です。ストレスを感じると最初に反応し、コルチゾール分泌のきっかけを作ります。
③ CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)
視床下部から分泌されるホルモンです。下垂体へ指令を送り、ACTHの分泌を促します。
④ ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)
下垂体から分泌されるホルモンで、副腎皮質を刺激し、コルチゾールの分泌を促す役割があります。
⑤ HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)
視床下部・下垂体・副腎が連携してストレスに対応するホルモン調節システムです。ストレス反応の中枢として重要な役割を担っています。
⑥ 副腎皮質
腎臓の上にある副腎の外側部分です。コルチゾールをはじめ、体に必要なさまざまなホルモンを分泌しています。
⑦ 内臓脂肪
胃や腸などの内臓の周囲につく脂肪です。増えすぎると糖尿病や高血圧、脂質異常症など生活習慣病のリスクを高めることが知られています。
⑧ 抗炎症作用
炎症を抑える働きのことです。コルチゾールは免疫反応を一時的に抑えることで、過剰な炎症を防ぎ、体力の消耗を抑える役割があります。
⑨ ステロイド薬
コルチゾールの働きをもとに作られた薬です。炎症やアレルギー、自己免疫疾患などの治療に広く使用されていますが、長期間使用すると中心性肥満などの副作用が現れることがあります。
⑩ 中心性肥満
お腹周りを中心に脂肪が蓄積する肥満のタイプです。手足は比較的細いまま、お腹だけが出る体型が特徴で、内臓脂肪の増加によって起こりやすくなります。
※本動画は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の診断・治療・予防効果を保証するものではありません。