久津川医師
久津川医師
今回は、大腸がん検診で広く行われている「便潜血検査」について、その効果と限界、そして見逃されてしまうリスクについて詳しくお話しします。

    大腸がんは今、最も身近ながんの一つ

    大腸がんは、日本において死亡数・罹患数ともに非常に多いがんです。特に50歳以上の男女で発症率が高く、部位別のがん死亡数では、女性で第1位、男性で第2位となっています。さらに、新たにがんと診断される「罹患数」では、すでに大腸がんが男女ともに1位となっています。このように非常に頻度の高いがんである一方、早期発見できれば予後の改善が大きく期待できるという特徴もあります。そのため、定期的ながん検診の重要性は非常に高いと言えます。

    便潜血検査とは?その役割と陽性の意味

    便潜血検査は、大腸がん検診の一次検査として広く導入されている検査です。便の中に目に見えない微量の血液が混ざっていないかを調べる、比較的簡便な検査方法です。

    日本における便潜血検査の受診率は約40〜50%と報告されており、検診受診率の目標とされている50%以上には、いまだ到達していません。

    便潜血検査で「陽性」と判定された場合、「大腸がんではないか」と不安になる方も多いでしょう。

    しかし、陽性=大腸がん確定というわけではありません。
    大腸ポリープ、痔、腸の炎症などの良性疾患でも陽性となることがあります。

    このように、便潜血検査はあくまでスクリーニング検査であり、一定数の偽陽性が含まれることは避けられません。

    死亡率を下げる効果と、見逃されるリスク

    複数の研究により、便潜血検査を毎年定期的に受けることで、大腸がんによる死亡を約30%減少させることが示されています。この効果は、進行がんの発見だけでなく、早期がんや、将来がん化する可能性のあるポリープを発見・切除できることによって得られます。

    ただし、この効果は一度きりの受診ではなく、継続的に受けた場合に得られるものです。

    一方で、便潜血検査には明確な限界も存在します。その一つがサンプリングエラーです。便を自宅で採取するという検査特性上、採便量の不足、不適切な保存、便の一部だけを採取してしまうことなどにより、正確な結果が得られない場合があります。

    また、がんからの出血が一時的、あるいは微量である場合、便に血液が混ざらず、

    本当はがんが存在するにもかかわらず陰性となる「偽陰性」が起こることがあります。

    右側大腸がんが見逃されやすい理由

    便潜血検査には、左右の大腸で検出率に差があることが知られています。左側(直腸・S状結腸)のがんは比較的陽性になりやすい一方、右側(盲腸・上行結腸など)のがんは見逃されやすい傾向があります。

    これは、右側大腸では便が液状で血液が混ざりにくいこと、出血量が少ないことなどが関係しています。実際に、前年まで便潜血検査が陰性であったにもかかわらず、翌年の検査で陽性となり、大腸内視鏡検査を行ったところ、すでに進行した右側大腸がんが見つかったケースもあります。

    右側大腸がんは、症状が出にくく、予後が悪いことも統計的に示されており、非常に注意が必要です。

    陽性後の内視鏡検査を受けない人が約3割いる現実

    便潜血検査で陽性と判定された方のうち、実際に精密検査である大腸内視鏡検査を受ける人は約70%にとどまっています。つまり、約30%の方が検査を受けずに放置してしまっているのが現状です。

    この「検査からの脱落」は、がんの早期発見・治療の機会を失うことにつながり、予後にも大きな影響を及ぼします。医療従事者による丁寧な説明と、検査を受けやすい体制づくりが今後さらに求められます。

    まとめ:便潜血検査を正しく理解し、適切に活用する

    便潜血検査は、大腸がんによる死亡を減らすための有効なスクリーニング検査です。

    しかし、完璧な検査ではなく、約30%のがんを見逃す可能性があることも事実です。

    その限界を理解したうえで、毎年継続して受診すること、陽性となった場合には必ず大腸内視鏡検査を受けることが非常に重要です。また、便秘や下痢、血便などの症状がある場合は、検診ではなく医療機関を受診し、内視鏡検査を検討しましょう。

    当院では、内視鏡専門医が、鎮静剤を用いた安全で苦痛の少ない高精度な検査を行っています。ご不安な方も、まずはお気軽にご相談ください。

    📝 用語解説

    便潜血検査
     便に含まれる微量の血液を調べる大腸がん検診の一次検査。

    スクリーニング検査
     病気の可能性がある人を早期に見つけるための簡易検査。

    偽陽性
     本当は病気がないのに、検査結果が陽性になること。

    偽陰性
     本当は病気があるのに、検査結果が陰性になること。

    サンプリングエラー
     検体の採取方法や保存状態によって生じる検査誤差。

    大腸ポリープ
     大腸粘膜にできる隆起性病変。がん化するものもある。

    右側大腸がん
     盲腸や上行結腸などに発生する大腸がん。見逃されやすい。

    左側大腸がん
     直腸やS状結腸に発生する大腸がん。比較的検出されやすい。

    大腸内視鏡検査
     内視鏡で大腸内部を直接観察し、診断・治療を行う検査。

    鎮静剤
     検査時の不安や苦痛を軽減するために使用される薬剤。

    便潜血検査
    【医師が解説】便潜血検査の効果と限界とは? 便潜血検査って本当に必要?見逃されるがんとは?  No.538