健康診断の便潜血検査の結果が陽性(要精密検査)だったとき、「もしかして、大腸がんなのでは…」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。一方で、「便潜血検査の結果って当たらないんでしょ?気にしなくていいよね」などと思っている方もいらっしゃるかもしれません。
結論からいうと、便潜血検査が陽性だったとしても、そのほとんどは“がん”ではありません。 しかし、それは「放置して良い」という意味では決してないのです。
今回は、便潜血検査が「意味がない」のではなく、健康を守るための大切な「入口」である理由、そして検査結果を受けて次に何をすべきかを解説します。
便潜血検査は「意味ない」ではなく「入口」——検査の目的と限界
「便潜血検査は意味がない」という方もいますが、実は大腸がんの早期発見において、とても重要な役割を担っています。それを理解するには、便潜血検査がどのような仕組みなのか、本来の目的と、検査結果を正しく受け止めるためのポイントを知る必要があります。
便潜血検査の役割はスクリーニング(ふるい分け)
便潜血検査の最大の役割は、スクリーニングです。
スクリーニングとは、自覚症状のない(病気とは思っていない)多くの人の中から、病気の疑いがある人を見つけ出す“ふるい分け”のための検査のことです。つまり、便潜血検査は「大腸がんを確定診断する検査」ではなく、「隠れた病気の可能性を効率的に見つけ出す」ための、入口の検査なのです。
この「ふるい分け」があるからこそ、症状が進行する前に異常に気づき、大腸がんから命を守るチャンスを得られます(※1)。
「意味がない」と言われる理由とは?
便潜血検査は、便の中に、がんなどの病気に起因する血液が混じっていないかを調べる検査ですが、「意味ない」と言われる理由の一つに、「偽陽性」や「偽陰性」が起こり得る点があります。
■偽陽性:実際には大腸がんやポリープがないのにもかかわらず、結果が「陽性」と出てしまうことです。たとえば、痔や大腸の炎症、あるいは生理の血液が混入した場合など、がん以外の原因で出血している場合でも陽性になることがあります。検査のタイミングによっては、月経の血液が混入してしまうケースも考えられるでしょう。
■偽陰性:実際には大腸がんやポリープがあるのに、結果が「陰性」と出てしまうことです。大腸がんやポリープは、常に出血しているとは限りません。出血が少ないタイプや早期の大腸がん、大腸ポリープの場合、ほとんど出血することはなく、進行した大腸がんでも検査したタイミングでたまたま出血していなければ、陰性となることがあります。
このように、便潜血検査だけで100%正確な判断はできません。 だからこそ、検査の特性を理解することが大切です。
陽性から大腸カメラへ—二段構えで早期発見を高める
便潜血検査は、あくまでがんの可能性を拾い上げる一次検査(スクリーニング)です。この検査で「陽性」という結果が出た場合に、精密検査である大腸内視鏡検査(大腸カメラ)に進みます。この「二段構え」の仕組みは、大腸がんの早期発見率を高めるうえで、とても効果的な方法です。
「陽性」という結果は、あなたに「念のため、専門家による詳しいチェックを受けましょう」というサインを送ってくれているものだと捉えるとよいでしょう。
便潜血検査でわかること/わからないこと

検査結果を正しく受け止めるために、便潜血検査で「何がわかり」「何がわからないのか」を知っておくことが大切です。
便潜血検査で「わかる」こと
便潜血検査でわかるのは、「目では確認できない微量の血液が便に混じっているかどうか」という事実です。消化管のどこかから出血している可能性を示す「サイン」を捉えることが、この検査の目的です。
便潜血検査で「わからない」こと
一方で、便潜血検査では以下のことはわかりません。
・出血の原因:がん、ポリープ、痔、炎症など、何が原因で出血しているのか
・出血の場所:大腸のどの部分から出血しているのか
・出血のない病変の有無:出血していない早期の大腸がんや大腸ポリープ
便潜血検査は「出血」を手がかりにする検査のため、出血していない病変は見つけられないという弱点があります。また、患部が出血していても、たまたま便から採取した部分に血液が含まれていないこともあり、その場合も病気を拾い上げることができません。
検査の感度・特異度・陽性的中率とは
少し専門的になりますが、便潜血検査の結果を理解するうえで知っておきたいのが、「検査の精度」を表す指標です。ここでは、分かりやすく解説します。
| 感度 | 病気がある人(例:大腸がんの人)が検査を受けたときに、正しく「陽性」と判定される確率 |
| 特異度 | 病気がない人が検査を受けたときに、正しく「陰性」と判定される確率 |
| 陽性的中率 | 「陽性」と判定された人の中で、本当に病気が見つかった人の割合 |
国立がん研究センターの発表によると、大腸がんに対する便潜血検査の感度は、84 %とされています。また、正しく「陰性」と判定される確率(特異度)は、約92%と高い数値です。(※2)
便潜血検査で陽性になった人のうち、精密検査で大腸がんが見つかる確率は2〜3%程度とされています(※3)。つまり、陽性者の97%以上は、がんではなかったということです。「がんかもしれないので大腸内視鏡の精密検査を受けるのが怖い」という方がもしおられたら、この事実は、少し不安を和らげてくれるのではないでしょうか。
1回の検査では、たまたま出血していないタイミングに当たってしまい、がんを見逃す「偽陰性」が起こる可能性が高まります。しかし、毎年継続して検査を受けることで、出血のタイミングを捉えるチャンスが増え、発見率が大きく高まります。年1回の検査を習慣にすることが、早期発見につながる重要なポイントです。
「陰性」でも受診を考えたほうがよい症状
便潜血検査が陰性だったとしても、「絶対に大丈夫」といいきれるわけではありません。前述の通り「偽陰性」の可能性もゼロではないためです。
たとえば、ごく初期のがんや平坦な形のポリープは、出血しにくいことがあります。その場合、病変があっても便潜血検査では陰性になることがあります。
また、大腸の奥(右側結腸)にできたがんも注意が必要です。右側の大腸で出血した場合、便が肛門に到達するまでに血液が分解され、検査で検出されにくくなることがあります。
がんは常に出血しているとは限りません。出血したり止まったりを繰り返す「間欠出血」が多いため、検査のタイミングで出血が止まっていると、結果は陰性になります。
もし便潜血検査の結果が陰性であっても、以下のような自覚症状がある場合は、結果にかかわらず速やかに消化器内科を受診して、大腸内視鏡による詳しい検査を受けることをお勧めします。
受診を考えたほうがよい症状
- 目に見える血便や、便が黒っぽくなる(黒色便)
- 便秘と下痢を繰り返す、便が細くなったなどの便通異常がある
- 原因不明の腹痛やお腹の張りが続く
- 急に体重が減った
- 健康診断などで貧血を指摘された
【関連記事】大腸カメラを受けたほうが良い人の特徴とは?大腸がんから身を守る方法を解説
「陽性」のときは大腸内視鏡検査が次の一手

繰り返しになりますが、便潜血検査で陽性だったからといって、すぐに「大腸がん」と決まるわけではありません。 しかし、「心配しなくてよい」という意味ではなく、陽性という結果は「出血の原因を詳しく調べる必要があります」という重要なサインです。
陽性だった原因は痔だろう、などと自己判断は禁物です。その出血が本当に痔によるものなのか、あるいはポリープやがんが隠れていないかを確認できるのは、精密検査だけです。
大腸内視鏡検査の意味とメリット
便潜血検査が陽性だった場合に行う精密検査が、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)です。
大腸カメラには、「病気を見つける」だけでなく、将来のリスクを減らすという大きなメリットがあります。
大腸がんの早期発見と治療のため
便潜血検査で陽性となった人のうち、精密検査で大腸がんが見つかる割合が2〜3%程度という数字だけを見ると少なく感じるかもしれませんが、見方を変えると、検査を受けていなければ発見できなかった段階で、100人中3人の方ががんを発見できる可能性がある、ということでもあります(※3)。
早期の大腸がんであれば、お腹を切らずに内視鏡で治療できることも少なくありません。完治を目指せる可能性を下げないためにも、精密検査は必ず受けましょう。
将来がん化するポリープを発見・切除できる
当院でも、便潜血陽性後の精密検査で大腸カメラを実施すると、大腸ポリープが見つかることが少なくありません。 ポリープの多くは良性ですが、将来がん化する可能性があるものも含まれます。
大腸内視鏡検査では、検査と同時にこのポリープを切除することも可能です。将来の大腸がんを予防するうえで、非常に有効な手段となります。
大腸内視鏡検査を受けるときのポイント
「大腸カメラは痛くて苦しい」というイメージがあるかもしれませんが、鎮静剤を使用すれば、うとうとと眠っているような状態で楽に検査を受けられます。 緊張が和らぐことでお腹の力も抜け、医師もスムーズに観察できるため、より正確な診断につながるというメリットもあります。
ただし、検査当日は車や自転車の運転はできません。受信の際は、公共交通機関を利用するか、家族に送迎を頼むなどの準備が必要です。
また、大腸内視鏡検査で「一番大変だった」と感じる方が多いのが、下剤を飲む「前処置」です。しかし、前処置が不十分だと、腸の中に便が残ってしまい、小さな病変を見逃す原因になります。 正確な診断のためには、腸の中をきれいにしておかなければなりません。最近は味の改良された下剤や、飲む量が少ないタイプも出てきています。前処置に不安のある方は、医師に相談してみましょう。
【関連記事】大腸カメラ(大腸内視鏡検査)で何がわかる?検査の時間や流れについて徹底解説
便潜血検査を“意味あるもの”にする便の採取のコツ

便潜血検査の精度を少しでも高め、偽陽性や偽陰性を減らすためには、正しい方法で便を採取することが大切です。採取・保管・提出のポイントを整理します。
正しい採取・保管・提出のポイント(別日2回・複数箇所・期限厳守)
・別日の便を2回採る(2日法)
大腸がんやポリープは常に出血しているとは限りません。日を変えて2回検査することで、出血を捉える確率が高まります。
・便の表面を複数箇所から採取する
腸の壁とこすれて付着した血液は、便の表面に存在することが多いです。1 カ所だけではなく、数カ所をこするように採取しましょう。
・採取後は冷暗所で保管し、提出期限を守る
便中の血液成分は、時間とともに変化してしまいます。説明書に従って保管し、早めに提出しましょう。
避けたいタイミングと服薬の扱い(生理・肛門出血・抗血栓薬など)
以下のような場合は、検査を避けるか、事前に医師に相談しましょう。
・生理中
経血が混入し、陽性になる可能性があるため、生理が終わってから2〜3日空けて採便しましょう。
・痔などによる明らかな肛門出血があるとき
切れ痔などで出血している場合は、その血液が検査に反映され、陽性になってしまいます。
・抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)を服用中の方
薬の影響で出血しやすくなっている可能性があります。ただし、抗血栓薬は脳梗塞や心筋梗塞などを予防するために必要な薬でもあります。自己判断で休薬せず、必ずかかりつけ医に相談してください。
検査結果に応じて正しい次の行動を
陰性のとき:定期継続/症状あれば受診
「陰性」だった方は、まずはひと安心です。ただし、陰性は「絶対に大丈夫」という意味ではありません。大腸がんは、タイミングによっては出血が検出されないこともあるため、来年も必ず検査を継続してください。 もし、腹痛や血便などの気になる症状がある場合は、結果に関わらず消化器内科を受診しましょう。
陽性のとき:先延ばしせず大腸カメラを予約
便潜血検査が「陽性」だった方にとって、最も重要なのは、結果を放置しないことです。不安な気持ちは当然ですが、その不安を解消する唯一の方法は、原因をはっきりさせることです。すぐに消化器内科や内視鏡クリニックを受診し、大腸内視鏡検査の予約を取りましょう。
毎年陽性のとき:専門医と計画的に再検
「毎年陽性だけど、精密検査ではいつも異常なし」という方もいるでしょう。痔などが原因である可能性が高いですが、「どうせまた痔だろう」と自己判断してしまうのは危険です。 かかりつけの専門医と相談し、どのくらいの頻度で内視鏡検査を受けるべきかを決め、計画的にフォローしていくことが大切です。
当クリニックでは、「安全に、苦しくなく」大腸内視鏡検査を受けていただけるよう、一人ひとりに応じた量の鎮静剤や飲みやすい下剤(洗腸剤)などの工夫を行っています。
便潜血検査で陽性となった場合、早めに精密検査を受けることが大切です。初めて検査を受ける方にも安心していただけるよう、検査の流れやリスクについてもわかりやすくご説明しますので、お気軽にご相談ください。