血液検査の結果票に並ぶ数字は、ただの“異常を見つけるためのもの”ではありません。
そこには、身体がどのように働いているのか、どこに負担がかかっているのか何が足りていて何が不足しているのか が、正直に映し出されています。「基準値内だから安心」という見方だけでは、体が発しているサインを見落とすことがあります。
今回の中編はAST/ALT/γ-GTPなどの酵素項目を中心に、ビタミンB6との関係、LDL・HDLコレステロール、ChE・MCVといった肝の合成能や赤血球指標、さらにクレアチニン・尿酸など腎や代謝のヒントになる数値を、平島先生や秋山先生、スタッフの実測例とともにやさしく整理します。
前編はこちら
今回、同じタイミングで血液検査を受けたのは次の4人です。
- 平島先生
- 秋山先生
- ディレクター(スタッフ)
- 友人
肝機能AST/ALT/γ-GTPの“正しい読み方”——ビタミンB6と脂肪肝のサインを見逃さない
健康診断の「肝機能」は毎年ドキドキする項目ですよね。前の週だけお酒を控えて“ごまかす”人もいますが、数値には半減期があり(ASTは約20時間、ALTは約90時間)、直前調整で動く項目もあれば本質が隠れてしまう項目もあります。普段の生活を映す“本当の値”を見た方が、結局あなたの体には得です。
AST/ALT/γ-GTPは何を見ている?
- AST:肝臓のほか心筋・骨格筋・赤血球にも多い酵素。
- ALT:主に肝臓由来の酵素で、肝細胞のダメージに敏感。
- γ-GTP:肝・胆道・腎・膵・小腸に分布。飲酒や胆道系のトラブル、脂肪肝で上がりやすい。
これらは細胞が傷つくと血液中へ“逸脱”して上昇します。だから数値は臓器からのSOS。同時に、栄養状態や生活習慣の影響も強く受けます。
ASTとALTで“ビタミンB6”を推測する
AST/ALTの合成にはビタミンB6が必須。ここが大きなポイントです。
- 栄養学的な理想値:AST・ALTともおよそ20前後
- 簡易指標①:
AST − ALT > 2→ B6不足の疑い
(ASTは半減期が短くB6の影響を受けやすい) - 簡易指標②:
ALT − AST > 2→ 脂肪肝パターンのことが多い
※あくまで目安。医師は他項目や超音波、問診と組み合わせて判断します。
B6はたんぱく質代謝の要。セロトニン・ドーパミン・GABA・メラトニンなど神経伝達物質の合成にも使われます。B6不足や腸内環境の乱れがあると、たんぱく質を摂っても“使いこなせない”ことがあります。

LDLコレステロールは本当に“悪玉”?─検査値との上手な付き合い方
「LDL=悪玉だから低ければ低いほど良い」という理解は、実は少し乱暴です。LDLコレステロールは細胞膜の材料であり、副腎皮質ホルモン・性ホルモン・ビタミンDをつくる“原料”でもあります。したがって低すぎる値(例:120mg/dL未満が続く等)は、たんぱく質不足や栄養障害、過度な体重減少などを示すサインのことがあります。
一方で高値は“悪”と決めつけられがちですが、血管や組織の修復需要が高いときに上がることも。肝臓がコレステロールを合成し、LDLに乗せて必要部位へ届けるのは、本来の生理的な働きです。まずは慢性的な炎症の原因(過剰な糖質・飲酒・睡眠不足・喫煙・歯周病など)を点検し、生活を整えることが土台になります。
知っておきたいポイントは3つ。
① 数値だけで判断しない。
同じLDL高値でも、糖尿病・高血圧・喫煙・慢性腎臓病・家族歴の有無で動脈硬化リスクは大きく変わります。男性は高齢期で影響が出やすく、女性は加齢で女性ホルモンが低下するにつれ、LDLがやや高めに出ることがあります。
② 食事だけで全ては変わらない。
血中コレステロールの多くは肝臓で合成され、食事由来は一部に過ぎません。むやみに脂質を削るより、良質なたんぱく質と精製糖質の是正が有効です。
③ 薬は“最後ではなく並走”のことも
スタチン等は有効な治療選択肢です。自己判断で開始・中止せず、総合リスクと目標値を医師と共有しましょう。
今日からできること
- 主食や間食の精製糖質を見直す(夜遅い甘味・アルコールを控える)
- 毎食のたんぱく質(肉・魚・卵・大豆)を手のひら1枚分めやすに
- 早歩きの有酸素+週2〜3回の筋トレでHDL(善玉)を底上げ
- 口腔ケアと睡眠で慢性炎症をオフに
- 3〜6か月ごとに採血で経過確認(LDL・HDL・TG・non-HDL・HbA1c等)
受診の目安:LDLが160mg/dL以上が続く、家族性高コレステロール血症が疑われる、既往症(心血管疾患・糖尿病など)があります。複数リスクが重なる場合は早めにご相談ください。

上の図はNIPPON DATA80(2006)。非喫煙・非糖尿病者で、10年以内の冠動脈疾患死亡リスクを収縮期血圧×総コレステロールで示しています(色が濃いほど高リスク)。女性は年代を通じて高血圧・高コレステロールでも冠動脈疾患の死亡リスク上昇は小さい。一方男性は、とくに60~70代でSBP160~180以上かつ血清総コレステロール値が240以上で黄~赤に上がる。
LDL(悪玉)・HDL(善玉)コレステロールの新しい理解
昔はLDLは「悪玉」とされ下げることが推奨されていましたが、現在は「細胞修復やホルモン生成に必要な材料」であることが明確になっています。
● LDLが低すぎると起こる可能性
- 栄養不足
- ホルモン生成の低下
- 免疫低下

4人の実測例では、平島先生LDL106/HDL88、秋山先生89/83、ディレクター157/75、友人67/34。
ポイントはHDL(善玉)。体質の影響が大きい一方、確実に上げられる方法は“運動”です。実際に運動習慣がある3名はHDL高め、習慣が乏しい友人は低値でした。検査数値は生活の鏡。早歩きや筋トレを継続し、HDLを高めて動脈硬化リスクを下げましょう!!
肝機能検査は“組み合わせ”で読む―AST・ALT・γ-GTP・ChE・MCVの要点
外来でも質問が多いのが「肝機能の見方」。今回は肝臓専門医の視点で、一般的な読み方をやさしく整理します。
AST/ALT
健康な方はおおむねAST≧ALT。ALT優位(ALTが高め)は、糖質過多に伴う脂肪肝や軽い肝障害が隠れているサインになり得ます。
γ-GTP
アルコール摂取量、脂肪肝、胆石など胆道系のトラブルで上がりやすい指標。単独で断定はできませんが、継続高値なら生活見直し+精査を。
コリンエステラーゼ(ChE)
肝臓で作られる酵素で合成能(栄養状態)の目安。低栄養で下がり、脂肪肝で上がることがあります。病気の影響も受けるため他項目とセットで解釈します。
LDLコレステロール
細胞膜やホルモン、ビタミンDの材料。慢性的な炎症・修復過程で上がることもあります。薬での厳格低下が必要なケースはありますが、まずは体重・糖質・飲酒の是正が基本。薬の調整は必ず主治医と相談を。
MCV(平均赤血球容積)
100以上は多飲のサインになることがあり、γ-GTPと併せて飲酒影響の推定に役立ちます。
平島先生の数値は…MCV以外はちょうど良いですね! ちょっとお酒を控える方が良いかと。

秋山先生の数値は…隠れ酒もなくちょうど良いですね。

ディレクターの数値は…脂肪肝で間違いないですね笑

友人の方の数値は…脂肪肝ですね。

腎機能と尿酸の“見方”入門―クレアチニン/BUN/尿酸値
腎機能の基本はクレアチニンとBUN。
クレアチニンは筋肉の代謝産物で、筋肉量に比例します。高値は腎機能障害や脱水で上がる一方、0.65未満の低値は運動不足や筋量低下が背景にあることも。食事や尿量の影響は受けにくいため、低値も見逃さないことが大切です。BUN(尿素窒素)は前回解説の通り、たんぱく質代謝の指標。両者はセットで推移を確認しましょう。
実測例では、クレアチニン0.85〜1.00の範囲で全員良好。これは腎障害ではなく筋肉量が保たれているサインと考えられます。

尿酸値は“高すぎも低すぎもNG”。
尿酸は「痛風」のイメージが強いですが、実は強力な抗酸化物質。目安は4〜7mg/dL。
- 高値(概ね9以上):発作リスクが上昇。原因は①産生過多(糖質過多・大量飲酒など)②排泄低下(日本人に多い)。肥満、アルコール、糖質過多、脱水、ストレスは要注意。「プリン体ゼロ」の酒類でもアルコール自体で上がる点に留意を。
- 低値(3未満):体質のほかたんぱく質・ビタミンB群不足が背景のことも。免疫低下との関連が指摘され、低すぎは放置しない。

生活でできる対策
- 体重管理:内臓脂肪を落とすと尿酸・肝酵素とも改善しやすい。
- 水分補給:運動や入浴後はとくに意識。脱水+飲酒は発作の典型パターン。
- 食習慣:糖質・果糖飲料・深夜食を控え、たんぱく質とB群を不足なく。
- 運動習慣:筋量維持はクレアチニン“低すぎ”対策にも有効。
- 定期検査:クレアチニン・eGFR・BUN・尿酸を毎年同じ時期に。推移で評価します。
まとめ
腎機能はクレアチニン×BUN×経時変化、尿酸は“ちょうどよい範囲”を保つ発想が大切。高値だけでなく低値も健康サインを教えてくれます。自己判断の減量や断酒・内服は避け、値が気になるときは主治医に相談のうえ原因を特定し、生活改善を土台に治療を進めましょう。
📝 用語解説
尿素窒素(BUN)
たんぱく質が分解された最終産物。低いと“たんぱく摂取・代謝不足”のサイン、高すぎは脱水や腎機能低下の目安に。
AST
肝臓・心筋・筋肉などにある酵素。細胞のダメージやビタミンB6不足で上がりやすい。
ALT
主に肝臓由来の酵素。脂肪肝や肝障害で上昇しやすく、肝臓の状態を反映する。
AST−ALT差(簡易指標)
AST−ALTが“2以上”だとB6不足が示唆、逆にALTが優位だと脂肪肝の関与が示唆される目安(あくまで簡易)。
γ-GTP
肝・胆道系の指標。飲酒や脂肪肝、胆道トラブルで上がりやすい。たんぱく摂取状況の影響も受ける。
LDLコレステロール
細胞膜・ホルモン・ビタミンD合成の材料を運ぶ“配送役”。高値は炎症・修復需要のサインになることも。
HDLコレステロール
余分なコレステロールを回収する“掃除役”。遺伝要因の影響が大きく、上げるには有酸素運動が有効。
総コレステロール
LDLやHDLなどの総和。単体では評価が難しく、年齢・喫煙・糖代謝など他要因と合わせて判断。
コリンエステラーゼ(ChE)
肝臓で作られる酵素。栄養(たんぱく合成能)や脂肪肝の影響で上下。複数要因の影響を受けるため“参考指標”。
MCV(平均赤血球容積)
赤血球の大きさの平均。100以上は“飲酒影響”の目安になることがあり、貧血のタイプ分類にも用いる。
クレアチニン
筋肉量に比例する老廃物。高値は腎機能低下や脱水で、低値は筋肉量不足(運動不足)の目安になる。
尿酸
体内の強力な抗酸化物質の一つ。高すぎると痛風のリスク、低すぎも免疫面で不利と言われるため4〜7程度が目安。
痛風
尿酸結晶が関節に沈着して起こる激痛発作。肥満・飲酒・糖質過多、尿酸排泄低下が主因になりやすい。
脂肪肝
肝細胞に脂肪がたまった状態。飲酒や過栄養・運動不足で進行し、γ-GTPやALT上昇とセットで見つかることが多い。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)
お酒以外が主因の脂肪肝。炎症を伴うNASHは将来の肝硬変リスクにつながるため生活改善が重要。
ビタミンB6(ピリドキシン)
たんぱく代謝・神経伝達物質合成に必須。不足でASTが相対的に上がりやすく、PMS症状にも関与。
セロトニン/メラトニン
セロトニンは“気分安定”の神経伝達物質、夜間にメラトニンへ変換され睡眠を整える。合成にB6が必要。
ドーパミン
意欲・集中に関わる神経伝達物質。たんぱく質とB6などの栄養が不足すると合成が滞りやすい。
GABA
脳の“ブレーキ役”となる抑制性伝達物質。リラックスに関与し、合成にB6が関わる。
活性酸素(と抗酸化)
代謝や強い運動・ストレスで増え、細胞を傷つける。尿酸やビタミン類が中和(抗酸化)に働く。