
なぜ“数”が最重要なのか — 38兆 vs 数十億のスケール感
まず、前提の“数字の桁”から合わせていきましょう。
- 腸内細菌の総量:現在の見積もりは約38兆個。ヒトの体細胞(約37兆個)と同等の“生態系”です。
- サプリの乳酸菌:一般的な製品は数億〜数十億個。38兆という母集団に対し、一滴の水のような少量です。
このスケール差がある以上、“ちょっと入れた”ではほぼ統計的に埋もれます。だからこそ、先生たちは「1日1兆個」という桁での摂取を提案しているんです。これは腸内細菌学の第一人者・光岡知足先生が提唱してきた考え方にも通じます。大量に入れて、はじめて免疫と腸内代謝に触れる—ここが本日の主題です。
ポイント
- 自分に問いかける:「いま摂っている乳酸菌の“桁”は、38兆という母集団に届く設計か?」
- 結論:スケールを合わせるには“数(=用量)”が本質。最小有効量を超えないと、体感に結びつきにくい。

“生菌神話”をほどく — 胃酸・到達率・死菌の合理性
よくある誤解が「生きたまま腸に届く=価値」です。実際には—
- 胃酸の壁:生菌の多くは胃でダメージ。腸に生きて届く数はごく少数です。
- 届いても“エサ”にはならない:生きている間は腸内細菌のエサになりません。結局は数日で死んで、そこで初めて腸内細菌のエサとなります。
- 死菌のメリット:熱処理などで失活した死菌は大量に用意できるうえ、菌体成分(たんぱく質・脂質・多糖)が腸内細菌の“直球のエサ”になります。
先生たちのまとめはシンプルです。
「腸まで“生きて”届くかより、“どれだけ”届くか。数を稼げるのは死菌。」
補足:免疫スイッチの発想
小腸には、微生物や食事に反応して免疫をチューニングするパイエル板という“スイッチ”が並びます。ここを強く・広く押すには“数”が必要。数兆〜兆単位で押し切ってはじめて、全身のコンディションに波及しやすくなる—というのが実感です。
菌は“ポストバイオティクス”—エサになり、信号にもなる
死菌=効果がないではありません。いま世界のトレンドはポストバイオティクス(死菌や菌体成分/代謝産物を活用)。理由は2つ。
腸内細菌の“資源”になる
- 死菌はたんぱく質・脂質・多糖の塊。
- 腸内細菌はそれを分解・利用し、短鎖脂肪酸(酪酸など)を産生。
- 短鎖脂肪酸は腸のバリアや代謝、免疫のブレーキに役立つことが知られています。
免疫への“信号”にもなる
- 菌体成分(例:細胞壁の断片)は、腸のセンサーに「安全な刺激」として認識され、過剰な炎症を抑える方向へ舵を切ることがあります。
- 大量投与できる死菌は、この“信号の強度”を安定して確保しやすい。
要点はこちら
- Step1:量を確保(億〜十億ではなく、兆の設計)
- Step2:死菌+食物繊維でエサと信号の両輪を回す
- Step3:連日継続で、腸内生態系のベースラインを底上げ

「効かないからやめた」を防ぐ—目的は“整腸”よりまず“土台づくり”
整腸剤を“便通の薬”としてだけ見ると、体感が薄い日に「効かない」→途中でやめてしまうことになりがちです。先生たちの視点は逆で、
- 第一目的は“免疫と腸内環境の土台づくり”。
- 便通やお腹の軽さは“副次的な良い変化”として後からついてくることが多い。
- だからこそ、「数」×「継続」が最優先。
実践ヒントはこちら
- 用量:目安は1日1兆個(製品の表示で“〇〇個/日”を確認)。
- 併用:食物繊維(野菜・海藻・豆類)と一緒に。“エサ+エサ”で増殖と代謝を後押し。
- 期間:最低でも数週間〜数か月。腸内は日々“生まれ変わり”(ターンオーバー)を続けるため、時間投資が必要。
- 期待値:「すぐ効く」前提を外す。今日は“土台に1枚板を足した”つもりで続ける。

患者さんからのよくある質問は…
Q1. 胃酸に強い“生菌”を選べば十分?
A. 到達率は上がっても総数の壁は残ります。「生菌+死菌」という発想より、まず「総数の確保」から。
Q2. 便がすぐに変わらないと意味ない?
A. 便は“結果”です。腸粘膜・代謝・免疫の変化には時間差があります。土台づくりが先。
Q3. どのくらい続ければ?
A. 数か月単位で。先生たち自身は7〜10年継続。日常の一部にするのが最短ルート。
まとめ:今日から変えられるのは、“生きてるか”ではなく“どれだけ摂るか”
- 腸は38兆個の大都会。少量では景色は変わらない。
- 死菌は数を稼げて、エサにもなる。
- 目的は免疫と腸のベース改善。便通などはその先に。
- 合言葉は「1日1兆個」×「連日継続」。焦らず、静かに土台を積み上げる。
先生たちの実感に基づくアドバイスは一貫しています。
“生菌かどうか”より、“どれだけ、どのくらい続けられるか”。
その設計ができた瞬間から、腸は静かに変わり始めます。
📝 用語解説
生菌(せいきん):生きている微生物。胃酸で減りやすく、腸に届く数は限定的。
死菌(しきん):熱などで失活した微生物。大量投与がしやすく、菌体成分が腸の資源・信号になる。
ポストバイオティクス:死菌や菌体成分・代謝産物を活用して腸内環境や免疫に働きかける考え方。
腸内細菌叢(フローラ):腸内に棲む微生物の集合。多様性と総量が代謝・免疫に影響。
短鎖脂肪酸(SCFA):腸内細菌がエサを分解して作る酪酸など。腸のバリアや抗炎症に関与。
免疫スイッチ:小腸に並ぶ免疫調節の窓口。微生物刺激で過不足のない反応に整える。
ターンオーバー:腸内細菌が日単位で死んでは生まれを繰り返す動き。継続摂取が必要な理由。
バリア機能:腸粘膜が異物の侵入を防ぐ働き。短鎖脂肪酸や食物繊維、菌体成分で底上げ。
継続効果:毎日の小さな刺激の積み重ねで、ベースラインがじわっと上がる現象。