悪性リンパ腫について
血液細胞は、骨の中心部にある骨髄で、血液細胞のもとになる造血幹細胞からつくられます。
造血幹細胞は、骨髄系幹細胞とリンパ系幹細胞に分かれて成長し、骨髄系幹細胞からは、赤血球、白血球(顆粒球、単球)、血小板などが、リンパ系幹細胞からは白血球の一種であるリンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)がつくられます。
悪性リンパ腫は、どの段階でリンパ球が「がん化」するかによって名前が変わってきます。

悪性リンパ腫は、白血球のうちリンパ球が「がん化」する病気です。悪性リンパ腫には100種類以上の病型(病気のタイプ)があり、がん細胞の形態や性質によって、大きくB細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫・NK細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫に分かれます。
なお、B細胞リンパ腫とT細胞リンパ腫・NK細胞リンパ腫を合わせて非ホジキンリンパ腫と呼びます。
日本人の悪性リンパ腫の9割以上は、非ホジキンリンパ腫であるといわれています。

非ホジキンリンパ腫は、病気の進行の速さや激しさ(悪性度)によって、3つに分類されます。

進行の速さによって、インドレントリンパ腫(緩徐進行型、年の単位で、ゆっくり進行するタイプ)、アグレッシブリンパ腫(急速進行型、週~月の単位で、速く進行するタイプ)、高度アグレッシブリンパ腫(超急速進行型、進行が極めて速いタイプ)に分類されます。
インドレントリンパ腫は、進行が年単位でゆっくりした経過をたどることが多いですが、途中から月・週単位で急速に進行するアグレッシブリンパ腫に変わる場合があります。
胃悪性リンパ腫の種類は?
胃悪性リンパ腫は、胃の粘膜下組織に存在するリンパ球由来の悪性腫瘍で、上皮性の腫瘍である胃がんとは異なる特徴を持つ比較的稀な疾患です。
つまり、胃悪性リンパ腫は胃のリンパ組織に発生する悪性腫瘍であり、MALTリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)が大多数を占めます。発生頻度は低いものの、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫も発症します。
MALTリンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫は緩徐進行型、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、T細胞リンパ腫は急速進行型に分類されます。
1. MALTリンパ腫(低悪性度B細胞リンパ腫)
胃悪性リンパ腫の中で最も多く、約40~50%を占めます 。比較的緩徐に進行します。
内視鏡所見では、表層型の病変、粘膜の地図上発赤、褪色調(白色)粘膜、軽度隆起、びらんなどが見られます。早期胃がん癌との鑑別が必要です。
MALTリンパ腫はピロリ菌感染と関連が深く、ピロリ菌の感染が確認できれば除菌療法だけで60~80%が寛解します。内視鏡的切除が基本の早期胃がんとは大きく治療方針が異なるので、注意が必要です。
2. びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL、中悪性度B細胞リンパ腫)
胃悪性リンパ腫の中で2番目に多く、急速に進行します。内視鏡では潰瘍型や隆起型の大型病変として観察され、時に巨大な腫瘤を胃外に形成します。大きさの割に病変自体が柔らかく、進行胃がんと比べて胃壁の進展が良いのが特徴です。
通常は、化学療法や放射線療法など複数の治療法を組み合わせて治療を行います。
胃悪性リンパ腫の症状は?
胃悪性リンパ腫を生じても無症状の場合がほとんどです。そのため、健康診断やがん検診の胃の内視鏡検査などをきっかけに偶然見つかることが多いと考えられます。
初期には自覚症状がほとんどなく、一般的な症状には、持続的な腹痛や不快感、食欲不振、体重減少、吐き気や嘔吐、胃部の膨満感などがあります。進行すると上腹部痛、食欲低下、体重減少、貧血などが現れ、胃壁の肥厚による内腔狭窄や穿孔のリスクもあります
かなり進行するまで気づかれなかった場合には、腫瘍が大きくなるなかで潰瘍を作り、そこから出血して吐血や下血、血便の症状を認めることや、出血量が多いと貧血症状を契機に発見されることがあります。基本的には腫瘍が大きくなってから症状が出現するため、発見が遅れてしまうこともあります。
いずれも他の消化器疾患でも見られる症状であり、単独では胃悪性リンパ腫の診断が困難な場合がほとんどです。
胃悪性リンパ腫を診断するための検査とは?
胃悪性リンパ腫の診断には、次のような検査が行われます。
1. 胃X線検査(レントゲン検査)
食道、胃、十二指腸に病気がないか調べる検査です。健診で行われることが多く、造影剤と発泡剤とバリウムを飲み、胃や十二指腸を膨らませた状態でX線検査を行います。これにより、病気の位置や大きさ、臓器の形に異常がないかなどを、大まかに調べることができます。
しかし、胃X線検査自体が白黒の影絵であるため、大型の腫瘤や潰瘍は比較的容易に検出することが出来ますが、ほとんど平坦で、わずかな陥凹を有し褪色調の粘膜を有するような小さなMALTリンパ腫は検出することはほぼ不可能です。悪性リンパ腫の確定診断は病理診断であり、胃X線診断だけで胃悪性リンパ腫の診断をすることは困難で、質的診断能力は高くありません。

胃MALTの胃X線検査像:潰瘍を伴う大型病変
2. 胃内視鏡検査(胃カメラ)
胃悪性リンパ腫のほとんどは、健診や定期検査の際の胃内視鏡検査で偶然発見されます。胃内視鏡(胃カメラ)を使用して直接観察し、腫瘍の部位、大きさ、形などを確認した上で胃悪性リンパ腫を疑い、診断します。
胃悪性リンパ腫のほとんどが粘膜、粘膜の下に位置するため、粘膜表面からの生検検査が必須になります。大きな潰瘍をきたしている部分では壊死細胞が多く病理診断出来ない場合もあり、診断の確定になかなか至らない場合もあります。
進行胃がんと異なる点は、胃悪性リンパ腫の場合は大きさの割に柔らかく(耳たぶ様と表すこともあります)、進行胃がんの場合は硬い腫瘍として認識されます。内視鏡検査では、実際に指で病変を触っているわけではありませんが、生検の際に用いる鉗子で病変を掴むときの感触(硬い、柔らかい)が大きく異なるのです。

胃MALTの内視鏡像
3. 病理組織診断
胃悪性リンパ腫を診断する方法として一番重要な検査です。腫瘍(病変)の一部を生検で採取し、得られた組織を顕微鏡で観察して診断を確定します。
胃悪性リンパ腫は通常の病理組織診断に加えて、適切な診断を行うため、組織は免疫組織化学染色(IHC)を追加して診断する事がほとんどです。リンパ腫の種類を決定するのにこのIHCが必須であり、正確な診断・適切な治療方法の決定のためには、顕微鏡的な病理組織診断、IHCを悪性リンパ腫専門の病理医で診断を行う事がとても重要になります。

胃悪性リンパ腫(DLBCL):A HE染色、B CD20(IHC)、C BCL-6(IHC)、D ki-67(IHC)
4. 超音波内視鏡検査(EUS)
EUSとは、胃カメラに超音波を出す装置がついたもので、組織の構造が変化する部位で音波が跳ね返ってくる現象(エコー)を利用して、跳ね返りの強さや部位を画像として映し出すことで、粘膜の下の構造、腫瘍を詳しく調べることができます。通常の胃カメラの検査よりも時間がかかるため、鎮静剤を使用して眠っている間に検査を行うことがほとんどです。
粘膜の下に存在する腫瘍の特徴を観察することで、より正確な診断が可能になります。

表:EUS診断(malignant lymphoma:悪性リンパ腫)
粘膜表面からの生検で組織が得られない場合で腫瘍が大きい時などは超音波内視鏡で腫瘍を確認しながら針を刺して細胞を採取する超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)という方法を組み合わせることがあります。
これらのEUS、EUS-FNAは、通常の内視鏡クリニックで行われることは困難であり、一般的に総合病院や大学病院などに紹介して行われます。
5. 骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検)
骨髄検査は、皮膚を消毒し局所麻酔をした後に、一般的には腸骨(腰の骨)に針を刺して、骨髄組織を採る検査です。すべての胃悪性リンパ腫で行われる検査ではなく、骨病変を伴い全身性に拡がるような悪性リンパ腫であった場合に、染色体検査や遺伝子的な検索が必要な場合に行われます。
6. CT検査
X線を用いて体内の断層画像(輪切り画像)を撮影する画像診断技術です。身体の内部を描出するのに優れていて、病変の大きさ、周囲リンパ節腫大の有無、他臓器への転移の有無の検索を行います。造影剤を点滴しながら行うこともあります。同じX線を使うレントゲン検査と比べて、得られる情報量は段違いなのですが、X線を大量に照射するため放射線被爆が伴います。もちろん被曝のリスクよりも、病気を見つけずに放置しておくことのリスクの方が大きい場合は、積極的に撮影することが必要です。

胃悪性リンパ腫のCT像の一例
7. MRI検査
CT検査と似た検査ですが、X線ではなく磁力を用いて身体の内部を描出します。MRIは磁場と電波を利用した検査なので被曝はありません。CT検査は骨や肺の内部などを観察するのに向いており、MRI検査は軟部組織(筋肉や血管、皮下組織や神経など)を詳細に診断するのに向いています。
8. PET検査
がん細胞はブドウ糖の取り込みが高いことを利用して、遠隔転移を検出する検査です。悪性腫瘍(癌や悪性リンパ腫)と診断された場合に、一般的にはCTで遠隔転移を検索しますが、PET-CT検査を併用することで全身の状態を一度の評価する事が出来るため、病期(Stage)診断に用いられることが多いです。

PET/CTによるStaging
胃悪性リンパ腫の治療とは?
病理診断の結果が、胃悪性リンパ腫となった場合、診断後は病期分類を行い、治療方針を決定します。胃悪性リンパ腫の病期分類には主にLugano分類を使用します。

StageⅠが限局期、Ⅱ~ⅡEが進行期、Ⅳが遠隔転移を伴う場合です。
1. MALTリンパ腫
MALTリンパ腫のなかでも、胃にできるMALTリンパ腫ではヘリコバクター・ピロリ菌が陽性であった場合、ピロリ除菌療法が第一選択となり多くは寛解します。進行しているが病変が限られた範囲にとどまっているMALTリンパ腫や除菌不応例では現在は放射線療法が主体です。
出血や高度貧血などの症状がある場合は手術(外科治療)での切除を検討する事もあります。
進行したMALTリンパ腫では、分子標的薬や細胞障害性抗がん薬を使った治療を行います。リンパ腫による症状がなく体に特に問題が起こっていない場合、高齢の場合は、治療を行わずに注意深く経過観察することもあります。
2. びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)
中悪性度のため、化学療法(R-CHO療法)や放射線療法を組み合わせた治療が中心です。R-CHOP療法による多剤併用化学療法は、6種類の薬剤を組み合わせて使用します。抗体療法であるリツキシマブ、殺細胞性抗がん剤であるシクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロンが使用され、通常、3週間を1サイクルとして、6〜8サイクルの治療を行います。数サイクル毎のCTによる治療効果判定と副作用を考慮しながら、薬剤の種類や投与量を調整していきます。
化学療法と併用し、放射線療法を行うこともあります。特に、限局期の胃悪性リンパ腫は放射線化学併用療法、また、化学療法後に残存病変がある症例において放射線療法は有効な選択肢となります。
3. 外科的切除
かつては第一選択でしたが、現在は非外科的治療が主流です。ただし、早期の限局性病変に対する根治的切除、病変からの出血や穿孔などの合併症がある場合の病変切除、化学療法や放射線療法に反応しない残存腫瘍の姑息的切除の場合には手術が行われることもあります。
最後に
今回は胃悪性リンパ腫についてまとめてみました。悪性リンパ腫の概要について、胃悪性リンパ腫の種類、症状、診断と治療についても簡単に説明しました。
胃悪性リンパ腫特有の自覚症状はありませんが、腫瘍が大きくなるにつれて腹部の違和感、腹痛、吐き気などが生じる場合があります。さらに大きくなると食べ物の流れ道を塞いだり、出血を起こしたりする場合もあります。しかし、大抵の場合無症状であるため健診や定期的な内視鏡検査で発見されることが多い疾患です。
特にMALTリンパ腫はピロリ菌除菌で高率に寛解するため、感染の有無の確認が治療方針に直結します。進行例や高悪性度リンパ腫では化学療法や放射線療法が必要です。
胃悪性リンパ腫は、症状、リンパ腫の種類、腫瘍の悪性度により治療法が大きく異なるのが特徴です。胃悪性リンパ腫を早期の段階で発見して早期に治療を受けるためには、やはり定期的に胃内視鏡検査を受けることが極めて重要になります。