日本人の腸内フローラを一番乱す原因を考察してみる

    さて、この内視鏡知識シリーズをご覧になっている皆さんは、毎日腸活に勤しんでいるのではないかと思います。

    腸活の基本はプロバイオティクス、プレバイオティクス、そしてこの2つを合わせてシンバイオティクスでしたね。

    そして最近ではポストバイオティクスという言葉も出てきました。

    これは、2021年に国際プロバイオティクスおよびプレバイオティクス協会(ISAPP)が提唱した概念で、健康に有効な作用をもたらす不活化した菌体、または、その菌体の構成成分やその代謝物を積極的に摂りましょう、と定義しています。

    このポストバイオティクスの同義語として、パラプロバイオティクスという概念も現在は提唱されています。

    これは、加熱処理などで殺菌した死菌を摂ることにより、生体機能に良い機能をもたらすものを言います。

    シンバイオティクス、ポストバイオティクス、パラプロバイオティクス・・・このように、毎日腸活をしていれば、腸内環境は必ず良くなってきます。

    しかしながら普段の生活をしていると、腸内環境はどうしても悪い方向にいってしまいがちなんです。

    それでは今回は、普段の生活習慣で、私たちの腸内環境=腸内フローラに影響を及ぼすものについて解説したいと思います。

    いきなりですがここで問題です。

    我々の腸内環境=腸内フローラに一番影響を及ぼすものってなんだと思いますか?

    次の3つのうちから1つ選んでください。

    加齢、食事、薬剤

    ちなみに、この3つは腸内フローラに影響を及ぼすトップ3です。

    この中で一番腸内フローラに影響を及ぼすものはどれでしょうか?ということですね。

    正解は、

    薬剤

    です!

    順位をつけると、1位薬剤、2位加齢、3位食事

    となってます。

    ちなみに、加齢や食事は比較的長い期間を経て腸内フローラに影響を及ぼしてきますが、薬剤は、短い期間で腸内細菌に影響を及ぼすこともあるので要注意です。

    つまり、良くも悪くも私たちの体に一番影響を及ぼしやすいのが薬剤ということになります。

    実は、この薬剤ですが、加齢や食事などと比べると約3倍も腸内フローラに影響を及ぼしやすいと言われています。

    Nagata, N. et al, “Population-level metagenomics uncovers distinct effects of multiple medications on the human gut microbiome” Gastroenterology 163, 1038–1052 (2022)

    それでは次に疑問が浮かんでくるのが

    「薬ってたくさんあるけど、どの薬が腸内フローラに影響を及ぼすんだろうか?」

    ではないでしょうか。

    それでは、腸内フローラに影響を及ぼす薬剤トップ3を発表します。

    1位:消化器疾患治療薬

    2位:糖尿病薬

    3位:抗生物質

    となっています。

    なるほど、個人的には1位は抗生物質と思っていたのですが、なんと消化器疾患治療薬が1位なんですね。

    それではこの消化器疾患治療薬って具体的にはどんな薬でしょうか?

    代表的なものは、胃酸分泌抑制薬です。具体的には、ガスター、ネキシウム、タケキャブなどが有名ですね。我々医師もよく処方する薬です。

    それでは胃酸分泌抑制薬は、どのようなメカニズムで腸内フローラに影響を及ぼすのでしょうか?

    胃酸分泌抑制薬を飲むと胃酸分泌が抑制されます。すると、本来なら胃酸で殺菌されていた口腔内常在菌が殺菌されずに大腸内に到達するんです。そしてこの菌が大腸内で悪さするんですね。

    最近の研究では、歯周病菌として有名な口腔内細菌であるFusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム)が、大腸がんと密接な関連があることが明らかになっています。

    ただ、ここで疑問が湧いてきます。

    口腔内常在菌って、酸素下でも生きていける菌です。まあこれは当たり前ですよね。すぐそこに空気がありますから。

    ところが、大腸内ってほとんど酸素がない状態なんですよね。それなのになんで口腔内常在菌が大腸内に住み着くことができるんでしょうか?

    その答えは「腸漏れ」にあります。

    腸内環境が悪くて「腸漏れ」を起こすと、なんと大腸内に酸素が漏れ入りこんでくると言われています。

    これにより、腸内に酸素が入り込み、口腔内常在菌が大腸内に住み着くことができるんです。

    「腸漏れ」って恐ろしいですね。

    腸内環境が悪くなると腸漏れを起こしてきますから、胃薬の長期服用により、どんどん負のスパイラルに入っていくことになります。

    その他、消化器疾患治療薬で腸内フローラに影響を及ぼすものとしては、便秘薬が有名です。

    詳しいメカニズムはまだ分かっていませんが、下剤の長期服用により、腸内フローラを乱すことが判明しています。

    胃腸に良かれと思って飲んでいる消化器疾患治療薬が、一番腸内フローラを乱す薬剤とは皮肉なものですね。

    また、個々の患者さんにおける内服している薬剤の数が多ければ多いほど腸内細菌の多様性低下しているとのことです。

    特に、短鎖脂肪酸を産生する善玉菌の種類が減少していることが指摘されており、沢山の種類を飲んでいる方は要注意です。

    そしてもちろん、抗生物質も要注意です。

    抗生物質は細菌を殺菌する薬ですが、皆さんも一度は必ず飲んだことがあるのではないでしょうか。ちょっとした風邪でもすぐに抗生物質を処方する医師もいますよね。

    最近報告された論文を紹介します。

    Baldanzi G,et al,” Antibiotic use and gut microbiome composition links from individual-level prescription data of 14,979 individuals” Nat Med, 2026Mar11. 

    この論文では、スウェーデンで抗生物質を投与された、14,979人の患者さんの便を経時的に採取して、抗生物質により腸内細菌がどのように影響を受けているのか、そしてその影響はどれくらいの期間続くのかを調べてました。

    その結果ですが、一部の抗生物質によって、

    1. 腸内細菌の多様性が大きく低下した
    2. 肥満、高脂症、糖尿病のリスクを上げる悪玉菌が増えた

    という結果が報告されていたんです。

    一部の抗生物質とは、クリンダマイシン、フルオロキノロン、フルクロキサシリンとのことです。

    この中で日本でもお馴染みである薬が、クリンダマイシンの仲間であるダラシン、フルオロキノロンの仲間であるクラビットですね。ダラシンはにきびの治療でよく使われますし、クラビットは様々な感染症でよく処方される抗生物質です。

    我々も、急性胆嚢炎などの胆道感染症や、細菌性腸炎のような腸管感染症の場合、よくクラビットを処方します。

    そしてこの論文では、1コースでも抗生物質を使用すると、先ほどのような腸内環境の変化が起こってくるとのことでした。

    1コースというのが、どうやら医師が患者さんに一度に処方する分を1コースと定義しています。

    大体、我々医師は、1回の処方で抗生物質を3日〜7日ほど処方するケースがほとんどですので、数日抗生物質を飲んだだけで腸内環境に影響を及ぼすということになります。怖いですよね。

    そして、先ほどあげた腸内環境の悪化がどれくらい続くのかですが、抗生物質を内服後の1年間が一番強く影響を受けており、そこから徐々に回復してきますが、完全に回復するのに数年かかってます。中には8年もかかっているケースもありました。

    たかだか数日抗生物質を飲んだだけでそこまで長期間もの腸内環境に影響を及ぼすとはちょっと驚きですよね。

    そしてこの抗生物質による腸内環境のダメージですが、抗生物質を飲む回数が多くなればなるほど、それだけ腸内環境のダメージが蓄積され、健康的な元の腸内環境に戻るのに時間がかかるとのことでした。場合によっては、完全に元に戻らない不可逆的な変化となるケースもあるとのことです。

    このような報告を知ると、我々医師は安易に抗生物質を処方しないように気をつけないといけないと感じます。抗生物質は市販では売ってませんから、コントロールができるのは医師だけです。

    いかがだったでしょうか。

    皆さんも胃薬や便秘薬は飲みすぎないようにしましょう。そして、沢山の種類を飲んでいる方は、今一度主治医と相談して不必要な薬を飲んでいないか相談してみると良いのではないかと思います。

    また、我々医師も、風邪だからと抗生物質を安易に処方するのではなく、きちんと診断をつけて必要な量だけ使うようにしないといけないですね。