リカバリーウェアは「医療機器」って本当?
近年、疲労回復や睡眠の質の向上を目的とした「リカバリーウェア」が注目されています。実はこれらの商品の多くは、「家庭用遠赤外線血行促進用衣」という名称で一般医療機器(クラスⅠ)に分類されています。
「医療機器」と聞くと高度な治療器具を想像する方も多いかもしれませんが、クラスⅠは人体へのリスクが非常に低い分類で、絆創膏や包帯などと同じカテゴリーです。そのため、ドラッグストアや量販店などで誰でも購入できます。
リカバリーウェアの仕組みは決して新しい技術ではありません。繊維に鉱物を練り込み、その鉱物が体から放出される熱(遠赤外線)を利用して血流を促進するという、昔からある原理を応用しています。遠赤外線によって局所の毛細血管が拡張し、血液循環が改善することで疲労回復をサポートすると考えられています。
ただし、「血流が促進される」ということと、「疲労が劇的に回復する」ということは別の話です。ここは広告だけでは分かりにくい部分なので、冷静に理解しておくことが大切です。

なぜここまで人気になった?価格差が大きい理由
リカバリーウェア市場の先駆けとなったのが、2010年に発売されたVENEXです。その後、2021年頃にTENTIALのBAKUNEが登場し、テレビCMやインターネット広告など積極的なプロモーションによって一気に知名度が高まりました。
現在ではワークマンやニトリなども参入し、高価格帯から低価格帯まで非常に幅広い商品が販売されています。
価格を比較すると、高価格帯は上下セットで3〜4万円程度、一方でニトリやワークマンなどの低価格帯は4,000円前後と、およそ10倍近い差があります。

この価格差が生まれる理由として考えられるのは、
- 使用している繊維や鉱物の種類・量
- 生地の質感や着心地
- ブランド価値
- 広告宣伝費
などです。特に、有名芸能人を起用した広告やブランドイメージは価格に大きく反映されていると考えられます。
先生方も「広告費の割合はかなり大きいのではないか」と率直な意見を話しており、高価格だからといって効果まで比例するとは限らないという見方を示していました。
実際に2週間着比べて分かったこと
今回、秋山先生は高価格帯のVENEXと低価格帯のニトリ製品を約2週間着用して比較しました。
その結果、どちらを着ても
- なんとなく寝付きが良くなった気がする
- 朝起きた時に疲れが軽く感じる
- 睡眠の満足感が少し高い
という印象を受けたそうです。
一方で、高価格帯と低価格帯を比べても「効果が10倍違う」と感じることはなく、大きな違いは生地の肌触りや着心地でした。高価格帯はより柔らかく、サラッとした質感で快適性が高い印象だったといいます。
また先生方は、「高い商品だから効いてほしい」という心理が働くサンクコスト効果や、「効果があると思って着ることで実際に良く感じるプラセボ効果」についても紹介しています。
プラセボ効果は決して悪いものではありません。医療の世界でも実際に認められている現象で、薬だと思って服用した偽薬でも症状が改善するケースがあります。
動画内でも、蕁麻疹の患者さんにステロイドを投与すると説明しただけで、実際には薬が入っていない状態にもかかわらず症状が改善したという印象的なエピソードが紹介されていました。これは、思い込みや安心感が身体に影響を与える代表例といえるでしょう。
プラセボ効果とは、有効成分を含まない薬でも「効くかもしれない」と期待することで、痛みや吐き気、不安などの症状が実際に軽くなる現象です。「プラセボ」はラテン語で「私は喜ばせる」という意味。単なる思い込みではなく、期待や医師との信頼関係によって、脳内の鎮痛物質や神経伝達物質が働くことが分かっています。新薬の臨床試験で偽薬と比較するのは、薬そのものの効果とプラセボ効果を分けて調べるためです。反対に「副作用が出そう」と不安になることで、実際に不調を感じる現象は「ノセボ効果」と呼ばれます。
論文ではどのような結果が出ている?
「実際のところ、本当に効果はあるの?」という疑問に対して、先生方はリカバリーウェアに関する研究論文についても紹介しています。
今回取り上げられたのは、VENEXのリカバリーウェアを用いたダブルブラインド試験です。ダブルブラインド試験とは、参加者だけでなく研究者も、誰が本物の製品を使用しているか分からない状態で行う研究方法で、思い込みによる影響をできるだけ排除できる信頼性の高い試験方法です。
この研究では、運動後の13名を対象に、本物のリカバリーウェアと見た目が同じプラセボウェアを着用してもらい、
- 筋肉の回復などの客観的な評価
- 疲労感や睡眠の質などの主観的な評価
を比較しました。
その結果、筋肉の回復など客観的な指標では大きな差は認められませんでした。一方で、「疲れが取れた気がする」「睡眠の質が良くなった」といった主観的な評価では、VENEXを着用したグループの方が良い結果となりました。
もちろん、この研究は対象者が13名と少なく、大規模な研究とは言えません。そのため、この結果だけで「確実に効果がある」と結論付けることはできません。しかし、良い結果だけではなく、客観的な評価では差がなかったというネガティブな結果も含めて公開している点について、先生方は「研究姿勢として評価できる」と話しています。

医師がおすすめする選び方
ここまでの内容を踏まえると、現時点で考えられるポイントは次のようになります。
- 客観的に疲労回復効果が証明されているとは言い切れない
- 「疲れが軽くなった」「よく眠れた」といった主観的な満足感は期待できる可能性がある
- 高価格帯は肌触りや着心地が良いものが多い
- 価格差ほど効果の差があるとは考えにくい
そのため、「まず試してみたい」という方であれば、比較的購入しやすい低価格帯から始めるのも十分選択肢になります。動画内でも、低価格帯ではネット購入しやすいニトリの商品が勧められていました。一方で、着心地や品質、日本製へのこだわり、研究データの蓄積などを重視するのであれば、高価格帯のVENEXも有力な選択肢になるでしょう。
動画の終盤では、秋山先生が「実験が終わった後もVENEXを交互に着続けている」と話す一方で、洗濯や乾燥の話題で盛り上がるなど、先生方らしい和やかな雑談もあり、終始リラックスした雰囲気で比較が行われていました。
まとめ
リカバリーウェアは、遠赤外線による血流促進を目的とした一般医療機器ですが、「着るだけで疲労が劇的に回復する」と断言できるだけの科学的根拠は、現時点では十分とは言えません。
一方で、睡眠の質や疲労感の改善を実感する人がいることも事実であり、その背景にはプラセボ効果や着心地の良さ、安心感など複数の要素が関係している可能性があります。
高価格帯だから必ずしも価格に比例した効果が得られるわけではありませんが、生地の品質やブランドの信頼性に魅力を感じる方には満足度の高い選択となるでしょう。まずは無理のない価格帯から試し、自分に合った一着を見つけることが大切です。
用語解説
① リカバリーウェア
遠赤外線などを利用して血流促進を目的とした機能性ウェアです。
② 一般医療機器(クラスⅠ)
人体へのリスクが最も低い医療機器の分類で、絆創膏や包帯なども含まれます。
③ 遠赤外線
身体から放出された熱を利用し、血流促進などが期待される電磁波の一種です。
④ 毛細血管
全身に張り巡らされた非常に細い血管で、酸素や栄養を細胞へ届けています。
⑤ 血流促進
血液の循環が良くなることで、酸素や栄養が体内へ運ばれやすくなる状態です。
⑥ プラセボ効果
薬効成分がなくても、「効く」と信じることで症状の改善がみられる現象です。
⑦ サンクコスト効果
高額な商品ほど「効果があるはず」と感じやすくなる心理現象です。
⑧ ダブルブラインド試験
被験者・研究者ともにどちらの製品を使用しているか分からない状態で行う研究方法です。
⑨疲労回復
運動や日常生活で蓄積した疲れから身体の機能が回復することです。リカバリーウェアは疲労回復を目的とした商品ですが、現時点では客観的な効果については十分な科学的根拠があるとは言えず、主観的な改善を感じる人もいると報告されています。
⑩ 鉱物繊維
繊維に鉱物を練り込むことで、身体から放出された熱(遠赤外線)を利用し、血流を促進する仕組みに用いられる素材です。
※本動画は一般的な健康情報・製品情報の紹介を目的としており、特定の治療・改善効果を保証するものではありません。